親の代わりに手紙を書く

親の介護

 この夏は梅雨が明けてから立秋(8月7日)までが短く、暑中見舞いを急いだ方もいらっしゃるでしょう。今や、LINEやメールで済ませる方が多いですが、高齢の親たち世代は何通か暑中見舞いのやり取りがあります。

 下書きを書いているうちに暑中見舞いの時期を逃し、残暑見舞いの期間さえ終わり、9月になり困っている老親の代わりに今年は2通の暑中見舞い(正式には9月になってからの挨拶状)を書きました。今回は、その代筆をしたときに困ったことなどを来年のためにまとめておきます。

代筆を明記する方法

 ビジネスの場合は、秘書や部下が上司に代わって手紙や文書を書くことは日常的なことです。むしろ、相手側も役職のある人がそのような事務的な作業をしているなどと思ってもいないので、代筆を相手に知らせる必要はないでしょう。
  それでも代筆であることを書く機会もあるかもしれません。その場合は 「」と書きます。まずは差出人として本人の名前を記載し、そのあとに続けて代筆であることを示す「代」と自分の名前を記入します。

 そういえば、校長名で発行された学校からの文書に「文責:教頭名や学年主任名」と書かれているものも多いです。内容や実際の文章は教頭、あるいは学年主任が書いていますよ、という責任の所在を明記しているのですが、そういう方法もありますね。

 家庭内では、夫宛に届いたお中元お歳暮等へのお礼状を妻が書くことがよくあります。その場合は、差出人の夫の名前を明記した横に 「」(家内とか妻の意味)の文字を書き、妻が書いていることを知らせます①。書き方は ①「山田太郎内」という感じです。「内」の書く位置は、縦書きであれば左下、横書きであれば右下です。「内」を書く際には、夫の名前より少し小さく書きます。日本的な感覚でしょうが、小さく書くことによって控えめな印象を与えることができるからです。
 一方、送り主の方と面識があれば、夫の名前と妻本人の名前を並記すればいいことです②。親戚や友人など親しい人に対しては、むしろ「内」は堅苦しい感じを与えますからね。
 それでも、「内」を使いたい場合は、「内」を書いた後に妻の名前を書けばいいようです③。この場合も「内花子」は控えめな小さな字にします。

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送り先が親戚の場合

  私の両親は今年83歳。手紙を書く相手の1通目は、母方の親戚の80歳代のおばでした(母にとってはいとこ)。 おばさんは夫と二人で暮らし、老々介護のような状態だと聞いていました。 親戚なので、娘である私の存在をあおばさんは知っていますが、人生で1回も会ったことはありません。

 8月上旬、そのおば様から暑中見舞いが届き、早速母も返事を書くための準備として暑中はがきを購入し、下書きを始めたようです。
 しかし、清書に至る前に、既に9月。

 母の希望は、「私が病気や体調不良で書けないとか心配させたくない。」ということ。本来は自分で返事を書きたいが、このままの調子で進めていくと年賀状になってしまうので、おばさんに失礼のないように返信を急ぎたい。そのため、今回は私が急いで返事をくことにして、母の心配を減らしました。

 ここで、まず、私の立ち位置を決めようと思いました。
    A: 母の代わりに手紙を書いていることを相手に伝える。
    B: 相手には代筆であると知らせない。

 仮に母が入院しているとか、認知症などで手紙が書けない場合は代筆であることを伝えますが、今回は、親戚で私の存在自体は知られているので、私からの手紙にしてもいいし、筆跡がわからない印刷にして母自身からの手紙にしてもよいと思いました。

 ただ、年賀状は印刷でも、、、と思いますが、今回は手書きでいただいた暑中見舞いだったため、返信も手書きに決めました。
 そうすると、母の筆跡とは明らかに異なるため、母の筆を知っているおばさんが見たら、私の字は代筆であると一目瞭然。もう、Aの方法しかありません。

 「母は、病気や認知症で書けないわけではない」ことを伝えておけばよいのですから。

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送り先の相手を知らない場合

 もう一通の相手は父の小学校時代の同級生で介護付き老人ホームに入所している女性。 同じ県内に嫁いだそうですが、私はもちろん面識はありません。
 便箋3枚で送られて来た手紙は自筆ではあるものの、その内容表記の不自然さから、認知症を疑わせるものでした。郵便番号の間違いや番地のない住所表記で届けてくださった郵便屋さんにはお手間をかけたかもしれません。しかも、その内容は、筋は通らないものの、ある人物の身上調査依頼と急ぎ返信を求めるものでした。

 小学校時代からおそらく父は、頼まれたら断れない責任感の強い人だったのだと思います。文面から不自然さはあるものの、明記されていた名前をもとに、何人もの人に尋ねてみたそうです。もちろん、その人物や身内につながる人の存在も見つけられず、謝りの手紙を書きたいというわけです。

 その相談を受けた際、私は返信を書くべきかを悩みました。

 私が読んでも、その手紙の内容は何かおかしい、おそらく時間の感覚があやしく、思考が整理できない人だ、と思わせるものでした。文章をつなげてみると「入所している施設の若い介護職員が、自分の実家近くの出身だとわかった。その職員の実家が今、どうなっているのか知りたい。というので調べてほしい。」というものです。父も、「こいつはぼけている。」というものの、幼いころの思い出と重なり、冷たく無視することもしたくないのでしょう。

 差出人のその同級生は、自分の入所施設名を封筒に書いてありました。早速調べたところ、その施設は実在するもので、口コミ評価も悪くない施設だとわかりました。

 個人情報だからという理由で、その同級生が入所していることさえ教えてもらえないかもしれない、と思いつつ、施設に電話してみました。最初こそ、怪訝そうな対応でしたが、事情を説明するにしたがって父の気持ちを理解してもらえました。

 電話口の職員さんの話によると、名前を書かれた職員は確かに働いていたが、既に退職したとのこと。また、 同級生は認知症状がある。いつ書いた手紙かはわからないが、おそらく書いた内容を覚えている可能性は低いと。

 そうなると話は簡単です。
 身上調査の結果を知らせる必要はないし、楽しい手紙に徹すればいいだけです。その電話口の職員さんには、これから父の代筆で送る手紙が届いたら、ぜひその同級生と一緒に読んでいただきたいと伝えました。

親の了解を得る

 代筆の場合、あくまで筆を代わりに取ったという立場であり、内容は本人に代わって書くものではないということになっています。

 今回の私は、両親の希望を確認し、娘の立場で書き上げました。

 書いた手紙は、それぞれ親に見せてから封印し投函しましたが、何も指摘や指示はありませんでした。まぁ、頼んでいる手前、娘に文句を言うと、娘がへそを曲げるとでも思っていて、何も言わず了解したのでしょう。

 特に、それぞれの親の様子を描写したところ
例えば、母も父も農作業をして健康でいることがうまく伝わっているところが、
娘も喜んでくれているとわかり、嬉しかったようです。

 確かに、「ありがとう」とか「ゆっくりやすみなよ」というような気づかいの言葉を伝えるようにはしていますが、「頑張っている姿をそのまま評価したこと」はほとんどありません。
 今回は、間接的ですが、両親の日常をきちんと見て、「私は見ているよ」ということを親に伝えられてことが良かったと思います。

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実際に書いたいた文章

一般的な書き方の流れに従いましたよ。

<1>頭語
今回は一般的に使われる「拝啓」を使いました。

<2>時候の挨拶:今回は9月始め
『 朝晩はだいぶ過ごしやすく感じられるようになりました。 』
『 少しずつ日暮れの時間が早くなり、秋の気配を感じます。 』
などがネットですぐ見つかりました。

<3>こちら(日常の両親の様子など)の近況を伝える
娘の私が見ている視点から、具体的に書く。

<4>結びの文 先方の健康を気遣う、
『ご自愛下さい』
『ご健勝を心よりお祈り申し上げます』
などが多く使われていますね。

<5>結語
今回は、父の代筆は「敬具」、母の代筆は「かしこ」を使いました。

<6>後付
日付
署名 〇〇○○(父の名前)並記して 代 娘△△ としました

母の代筆
拝啓
日中はまだ夏の名残りを感じますが 朝夕は秋を感じる今日この頃です
 母○○が暑中見舞いはがきを何度も書き直しているうちに季節の方が先に進んでしまいました
 手紙は遅くなりましたが、本日、いつもの信州の味の配送手配をしましたので、来週早々にはお手元に届くと思います。今年の味をお楽しみください。
 昨日は、白菜の種まきをするなど 母○○は農作業を楽しみに過ごしております。そちらの夏は 信州とは比べものにならないほど 暑いでしょうにおばさまのお元気な様子を拝読し、母はとても励まされておりました
しかし、夏の疲れはこの時分に出やすいということ どうぞ
おばさま お体 大切になさってください
                            かしこ
  令和元年9月2日
                         ○○ ○○
                            代 △△
                        

父の代筆
拝啓
日中はまだ夏の名残りを感じますが  少しずつ日暮れの時間が早くなり、秋の気配を感じます。
 ◇◇様におかれましては、〔施設名〕でリハビリに精を出されているご様子、お手紙を拝読し、父□□も安堵しております。□□も毎日20~30分間のウォーキングを欠かすことなく元気に過ごしております。しかし、父も目や耳がずいぶん弱くなり、携帯電話はあまり役に立たないようです。また同級会長など各種のお役は退き、今は孫の成長を楽しみに日々暮らしております。
畑では今夏も□□が丹精込めたとまとをハクビシンが夜中に来ては食べ、昼間は親子連れのタヌキやキツネらも庭をのんきに横切っていく始末です。
◇◇様の 暮らす〔施設名〕 はきっと都会でにぎやかだろうと想像し、
〔施設名〕 での楽しそうな様子に□□も励まされたところです。
時節柄、一層のご自愛をお祈りいたします。
                            敬具
  令和元年9月2日
                         ○○ ○○
                            代 △△

封筒にも、同じ様に親の名前の左下に「代」と入れて封をしました。

まとめ

 今回の手紙は2通とも手書きです。80歳を超えた方に読んでいただくためフォントとしては36くらいの大きな文字で行間の広い便箋を選び、読みやすいように太いペンで はっきりと書きました。
 投函前に親が喜んでくれたのも嬉しかったですが、おばさまたちがそれを読んで、一時でも私の両親の顔を思い浮かべてくれたらいいなぁと思っています。

 手紙の代筆は、介護される側にとってはとても助かることだと思いますが、 介護保険での「代筆」はサービスとして報酬算定できないそうです。娘である私が、親の希望を聞いて代筆することに問題はないと思うので、こんなに喜んでくれるなら、また代筆しようと思います。
 手紙にはきちんとしたマナーやルールがあり、面倒に感じてしまいがちですが、さらっと書ける50代女性になりたいものです。

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Posted by カトラ